ガン患者の病期や個人的ニーズに対応した必須微量栄養素(例:セレニウム)の補給は、高用量投与、良好なコンプライアンスの維持、治療の中断の防止によって、侵襲性ガン治療(CT、RT、OP)の副作用軽減と、有効性を向上させるのに役立つ。また、同様に、ガン患者のQOLの改善、免疫システムの向上、手術後の回復促進、炎症抑制、再発と転移の防止も期待できる。
ガン患者に対するビタミンや他の必須微量栄養素の補給は、多くの場合不可欠である。病に冒された人々の多くにおいて、幾つかの栄養素はガンとの戦いによって消費され、微量栄養素の欠乏を呈している。したがって、微量栄養素の補充により、腫瘍や治療による微量栄養素の欠乏を防ぐ事は、全ての一般的なガン治療の病因論的な基本として重要である。
ガン患者の血中、血漿中の微量栄養素やビタミンの濃度は,栄養不足による臨床症状が無い場合ですら,健常人と比較して低濃度であることが認められている。蓄積量や許容能に限界がある微量栄養素(例えばB1、B6、B12、葉酸)と同様に、免疫調整や抗酸化能を持つ微量栄養素の補充は特に重要不可欠である(Table 1)。ガンの症状発現前の不適切な食事は、食欲の減退と食欲不振による食物に対する嫌悪感と同様、ガン患者の微量栄養素不足の第一の原因である。
Table 1: ガン患者にための臨床的微量栄養素免疫システム調整剤と抗酸化剤 |
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● ビタミンA、ビタミンE(α-、γ-トコフェロール)、カロテノイド(リコピン) |
● ビタミンC |
● コエンザイムQ10(特に乳ガン)、L-カルニチン(特にシスプラチン、イホスファミド治療、疲労) |
● L-システイン、L-グルタチオン |
● セレン、亜鉛 |
● オメガ3脂肪酸(特に悪液質) |
蓄積量や許容能に限界のある栄養素 |
● ビタミンB1 -10 日 |
● ビタミンK -6 日 |
● ビタミンB複合体(特にB6、葉酸、B12) 2-4 月 |
● ビタミンC、D |
アルカリ性栄養素 |
● マグネシウム、カリウム |
ガン患者では、通常の健康に良く栄養のある食事を摂取しても十分な補給が難しいようなビタミン、ミネラル、微量元素の必要量が増すが,特に吐気や嘔吐のような一般的な副作用が現れる化学療法や放射線療法の期間中は、バランスの良い食事を摂ることは非常に難しい。化学療法や放射線療法によって引き起こされる粘膜障害(例:放射線性大腸炎・下痢)は、栄養素の吸収を阻害し、さらなる栄養素欠乏状態を引き起こす。ガン患者の血漿中の免疫調整作用や抗酸化作用を持つ多くの微量栄養素は、化学療法や放射線療法の結果、非常に低いレベルまで減少する。血漿中ビタミンC濃度は壊血病の限界とされるレベル(?6μmol/l)にまで低下しうる。その結果として歯肉炎や筋力低下、紫斑病、体重低下、食欲不振のようなビタミンC欠乏症の症状がガン患者に観察される。化学療法が微量栄養素や症状に及ばす特異的な影響は、ガンの侵襲的治療の計画の段階であらかじめ考慮されるべきである(Table 2参照)。例えば5-フルオロウラシルは、ビタミンB1欠乏を引き起こす可能性があり、それによって炭水化物の代謝異常を引き起こす(例:グルコース点滴によるラクトアシドーシス)。
Table 2 : 細胞増殖抑制-栄養素の特異的相互作用
免疫システム調整剤と抗酸化剤
細胞増殖抑制剤 | 栄養素 | 機序 | 効果 |
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5-フルオロウラシル | ビタミンB1 | チアミンのリン酸化阻害 | 心不全ラクトアシドーシス |
メトトレキサート、MTX | 葉酸 | 葉酸拮抗物質 | 葉酸塩欠乏症ホモシスチン血症粘膜炎 |
イホスファミド | L-カルニチン | L-カルニチン排泄量↑ (医原性カルニチン欠乏症) | 低カルニチン血症疲労(?)脂質異常(?) |
インターロイキン2 | ビタミンC | 代謝性ビタミンC過剰消費 (ビタミンC枯渇) | ビタミンC欠乏症 |
シスプラチン | L-カルニチン | L-カルニチン排泄量↑ (医原性カルニチン欠乏症) | 低カルニチン血症疲労(?)脂質異常(?) |
マグネシウム | マグネシウム排泄量↑ | 低マグネシウム血症 -血漿Mg量↓ -赤血球結合Mg量↓ 低カリウム血症 低カルシウム血症 PTHレベル↑ |
基本的な腫瘍治療(化学療法と/または放射線療法)は確かにガン細胞に効果的であるが、残念ながら同様に患者にも攻撃的である。ガン治療の選択性には限界があるため、ガン細胞だけでなく正常組織、特に粘膜の増殖の盛んな細胞系(→粘膜毒性)、免疫システム(→免疫機能障害)、そして骨髄(→骨髄新生異常)にもダメージを与える。
気管支や消化器官内の粘膜は特に化学療法や放射線療法に対し敏感である。腸管粘膜のダメージは,腹痛や栄養素の損失の増加(嘔気、嘔吐)を引き起こす。同様に、栄養素の摂取(下痢)、吸収(吸収不良)の重度障害をも引き起こす(Table 3、4)。化学療法と/または放射線療法の治療期間中、患者は多くの場合、必要な微量栄養素のうちの半分以下しか摂取できない。
そして、そのような状態は何週間も続くことがある。モルヒネを含有する鎮痛剤の便秘作用も考慮されるべきである。 さらにガン治療によって、人体において最も重要な免疫防御システムの1つ、腸内のGALT(Good Associated Lymphatic Tissue)と気管支系のBALT(Bronchus Associated Lymphatic Tissue)も損傷される。このことは病気や治療によって衰弱した体に、感染性微生物が粘膜を通して侵入することを容易にする(→バクテリアルトランスロケーション)。
その結果、2次感染や敗血症のリスクが高くなり合併症率が増加する。腸管粘膜は最も大きい内因性の免疫応答システムを構成し、重要な局部的かつ体系的な生体防御、制御機能を供給している。特に重要な粘膜関連リンパ組織は、小腸の中のパイエル板とヴァルダイアーの咽頭輪である。
Table 3 : 化学療法(CT)-における微量栄養素の欠乏を引き起こす副作用吐き気と嘔吐 |
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● 高頻度催吐作用 : シスプラチン、カルムスチン、ダカルバシン、ロムスチン |
● 催吐作用 : アントラサイクリン系、カルボプラチン、イホスファミド、 |
シクロフォスファミド、マイトマイシンC |
下痢 |
● 5-フルオロウラシル(5-FU)、メトトレキサート、アントラサイクリン系、シスプラチン、イリノテカン |
粘膜障害(粘液性)と消化管潰瘍 |
● アントラサイクリン系、5-フルオロウラシル(5-FU)、メトトレキサート(MTX)、ビノレルビン |
食欲不振 |
● 嗅覚・味覚障害、無食欲、早期の満腹感、食品に対する嫌悪 |
Table 4 : 放射線療法(RT)-欠乏症すなわち微量栄養素の需要増加を引き起こす副作用
吐き気・嘔吐 |
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● 食欲減退、食欲不振 |
● 吐き気・嘔吐 |
● 臭覚・味覚・嚥下障害 |
● 口渇 |
● 下痢 |
● 粘膜炎 |
● 消化管潰瘍 |
● フィステル(例:食道) |
● 急性期・慢性期放射性腸炎 |
アミノ酸、グルタミン、グリシン、アルギニン同様、オメガ3長鎖不飽和脂肪酸は、特に免疫調整作用・抗炎症作用がある。免疫システムを強化し、腸の 機能を維持するために、アルギニンとグルタミン、オメガ3脂肪酸を含有する経口液剤、いわゆるイムノニュートリーション(immunonutrition)が用いられている。
アミノ酸のグルタミンは小腸にエネルギーを供給する成分であり、通常の腸管機能の維持に不可欠な栄養素である。グルタミンを多く含有するimmunonutritionはガン患者における感染症の合併症を減少させたり、在院日数を短縮させたりすることが可能である。ガンによる悪液質のように異化が亢進している状態(筋肉などが分解,減少する状態)の治療において、経口栄養あるいは静脈栄養の一環として、グルタミン(約 0.2~0.3g/kg体重/日)が、L-アルギニンとオメガ3脂肪酸と併用して投与される。
化学療法と放射線療法に加えて消化器官の外科手術も,同様に微量栄養素の吸収・利用の著しい障害を引き起こす(Table 5)。
Table 5 : 胃腸管の手術-欠乏症すなわち微量栄養素の需要増加を引き起こす副作用胃部 (例:胃切除術) | |
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ビタミン類 | ビタミンB12(→内在性物質の欠乏) ビタミンA、D、E、K、カロテノイド(例:リコピン)、葉酸(→pH勾配)、ビタミンC |
ミネラル類 | カルシウム(→乳糖不耐性、無酸症)、 マグネシウム |
微量元素 | 鉄、亜鉛(→無酸症)、セレニウム |
小腸 (例:小腸切除術) | |
ビタミン類 | ビタミン12(→細菌バランスの不均衡・死滅) ビタミンA、D、E、K カロテノイド類(→脂肪便) |
膵臓 (例:膵切除術) | |
ビタミン類 | ビタミンA、D、E、K、カルチノイド類(→脂肪便)、B12 |
ビタノイド類 | コエンザイムQ10 |
脂肪酸 | オメガ3脂肪酸(→脂肪便) |
Table 6 : フリーラジカルとROSの発性の特質
● 酸化DNAと膜障害(例 : 塩基障害・糸状体破壊) |
● 脂質過酸化:過酸化脂質(MDA、4-HNE)は細胞障害性をもち、DNAを修飾しうる。 |
● 潜在的変異原性を持つDNA塩基(例 : 8-ヒドロキシシトシン、8-ヒドロキシアデニン) |
● 酸化還元反応感受性転写因子NF-κB活性化と炎症性サイトカイン(例 : IL-1、TNF-α)の遺伝子活性化 |
● ガン原遺伝子c-fosとc-junの活性化 |
● 細胞内シグナル伝達の障害 |
● 細胞間コミュニケーション障害(gap junctions, connexin) |
フリーラジカルは1個以上の不対電子を持ち、化学的に不安定で短命な反応性の高い分子と言われている。その不安定な状態を相殺するために、フリーラジカルは他の分子から電子を奪い取り,新たなフリーラジカルを生成するという連鎖反応の結果,更なる細胞毒性のあるラジカルや反応性の高い副産物が絶えず生成される(→ラジカル連鎖反応)。
ヒトのひとつひとつの細胞のDNAは毎日約10000回にわたって、フリーラジカルによる酸化的攻撃を受けている。特に多価不飽和脂肪酸(→PUFA)を含む細胞膜中のリン脂質は、反応性の高いラジカルによる攻撃に曝露されている。細胞膜脂質の脂質過酸化や架橋は、細胞間の情報伝達や輸送システム(例:コネキシンを介する細胞間連絡)を障害することによって、細胞膜へ重大なダメージを与える。
細胞受容体の結合活性や酵素活性の変化と同様に、カルシウムの細胞膜透過性の亢進は、未成熟細胞の細胞死の引き金となりうる。4-hydroxynonenal(4-HNE)やMalondialdehyde(MDA)のような脂質過酸化による生成物は強い細胞傷害活性を持ち、DNAを修飾する。内因性酸化還元状態もc-fosのようなガン原遺伝子やガン抑制遺伝子のp53、転写因子のNuclear Factor-kappaB(NF-κB)の活性化に影響を与える。過酸化水素(H2O2)のような反応性の高い酸化物は、酸化還元状態に敏感な転写因子NF-κBを活性化させる。
NF-κBは炎症性のカスケード全体やレトロウイルスの複製、サイトカインの持続的産生を引き起こす物質の1つである。NF-κBは通常その抑制因子(I-κB)と結合しているが、炎症性の刺激や酸化ストレスによって抑制因子が解離し核内へと移行し、TNF-αのようなサイトカインの転写を促進する。TNF-α(cachectin)は炎症性の代謝を発現誘導し、ガン患者におけるガン関連性悪液質や身体的憔悴の原因と考えられている。動物実験において、セレニウムの欠乏がNF-κBによる調節遺伝子への結合(炎症性遺伝子の発現)を著しく増加させるという事は注目に値する。セレニウム同様、ビタミンC、レチノイド、βカロチン、ビタミンE、オメガ-3脂肪酸もまたNF-κBの活性化を阻害しTNF-αの産生量を減少させる。例えば、アントラサイクリンの心毒性のように、化学療法が誘導するフリーラジカルは潜在的な変異原性と組織毒性の原因となる事は議論すべき問題である(Table 7参照)。
Table 7 : 細胞増殖抑制剤 – ラジカル誘導性組織障害● アントラサイクリン系(例 : ドキソルビシン、エピルビシン) | 心毒性 |
● ブレオマイシン、ブスルファン、カルムスチン | 肺毒性 |
● シスプラチン、イホスファミド、シクロフォスファミド、MTX | 腎毒性 |
● カルムスチン、MTX | 肝毒性 |
アントラサイクリンは乳ガンや肉腫、ホジキン病、赤白血病急性期の治療に使われる抗腫瘍性抗生物質である。臨床で使用されるアントラサイクリン(例:ドキソルビシン、エピルビシン)は、1つまたは2つの電子を酸素分子に与える事によって、酸素分子をスーパーオキシド(・O2-)や過酸化水素(H2O2)へと還元させうるアントラキノン類である。
H2O2は鉄と反応する事によって,遺伝子への反応性が高いヒドロキシラジカル(・OH)を生成するので、特に危険である(フェントン反応)。アントラサイクリンと鉄との複合体も同様に酸化的ストレスを増加させる。ガン患者のリンパ球においてヒドロキシラジカル(OH・)は,DNA塩基の中のグアニンに対して酸化的変性を引き起こし8-ヒドロキシグアニンが生成する事。
その結果細胞の複製において複製された遺伝子に誤った対合をもたらす(GC対のTA対への変異)。ガン患者ではコントロール患者よりも高いレベルの8-ヒドロキシグアニンが尿中に認められる。このように8-ヒドロキシシトシンと8-ヒドロキシアデニンのようなDNAの塩基の傷害による生成物が出現する事は遺伝子変異原性がある事を示唆しており,それは治療で誘発される二次性の腫瘍の出現の原因となりうる。
抗酸化剤/免疫調整剤 | 1日服用量(経口) |
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ビタミンC | 6,100mg |
D-α-トコフェロール | 1,050mg |
β-カロチン | 60mg |
硫酸銅 | 6mg |
硫酸マンガン | 9mg |
硫酸亜鉛 | 45mg |
セレニウム | 900μg(mcg) |
この栄養素の組み合わせは、毎日経口剤で治療期間中、そして治療終了後1ヶ月間投与された。その後、服用量を半分に減量し継続した。
Table 8 : 化学療法に対する併用療法としての高用量抗酸化剤投与無作為臨床試験の予備結果(8)処置と結果 | 化学療法(n = 29) | 化学療法+抗酸化剤(n = 28) |
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化学療法の平均サイクル | 3 | 6 |
6サイクル服用患者数 | 11 | 16 |
完全寛解 | 0 | 1 |
部分寛解 | 9 | 16 |
不変 | 5 | 4 |
進行 | 15 | 8 |
1年後の平均生存期間 | 7ヶ月 | 14ヶ月 |
閉経後の乳ガン患者についてのある研究では、コントロールグループと比較して、ビタミンC(500mg/d)とビタミンE(400IU/d)の経口補助食品の摂取は、タモキシフェンが誘導する高トリグリセリド血症を著しく減少させた。加えて、2種類の抗酸化剤の併用はHDLの増加と、LDLコレステロールを含む全てのコレステロールの減少をもたらした。著者らは、タモキシフェン治療の効果は、ターゲットを絞り込んだ抗酸化剤を投与することによって、最も効果的なものになりうるという仮説の証明に取り組んでいる。
高用量の抗酸化剤(ビタミンEやβカロチン、コエンザイムQ10)の経口投与は、第一線の化学療法(パクリタキセル、パクリタキセル/カルボプラチン)に対する高用量ビタミンC非経口投与による補助療法(60g/点滴を週2回)同様、化学療法の効果を向上させることが、カンザス大学が最近発表した卵巣ガンの女性に対する試験の結果によって証明された。これらの良好な結果に基づき、現在大規模無作為臨床試験が計画されている。
抗ガン剤の抗腫瘍効果は、主にガン細胞のタイプに関連した細胞増殖率の速さに依存している。フリーラジカルおよび反応性の高い活性酸素が、ガン細胞の増殖を著しく減少させることができる一方、同時に抗ガン剤はラジカルを誘導する過程でガン細胞の成長を遅延させる事も注目に値する。
この方法でガン細胞はG0-phase(休止期)に長く留まり、抗ガン剤の効果を回避する。固形ガンでは、全てのガン細胞の90%が休止期にある。しかしながら、ほとんどの抗ガン剤は細胞周期に特異的であり、それらの抗ガン効果は主としてS期(DNA合成期)もしくはM期(有糸分裂期)に機能する。遺伝子の発現に対する影響と同様に、抗酸化剤はスカベンジャー機能によって、ガン細胞の細胞周期の減速を防ぎ、抗ガン剤の治療効果を向上させることが可能で,ガン治療の有効性の向上をもたらす。
病に冒されている患者は免疫力とQOLの向上から多大な恩恵を被る。その基盤となるのは、患者の病気や治療に合わせた最適な栄養素(例:ビタミンC、E、CoQ10、セレニウム、亜鉛)の選択による、様々な栄養素の組み合わせである。酸アルカリのバランスと必須多価不飽和脂肪酸の十分な供給も考慮されるべきである。
ガン治療(CT、RT、OP)の期間における、亜セレン酸ナトリウムの状態での微量元素セレンの投与は非常に重要であり、高用量を適切に投与されるべきである(500-1000μg/day-時々非経口的に!)。
私は2003年の2月にDr. Guenther Stoll とProf. Kurt SchumacherによってOncologic Conference of the German and Austrian Societies for Oncologyに発表された"the guidelines for an integrative oncologic concept"からの引用を用い、この論説を終えたいと思う。
"私達には患者に対して、可能な限り効果の高い治療はもちろんのこと、できるだけ(患者にとって)忍容性の高いガン治療を行なう責任がある"
○C Pharmacist Uwe Groeber, Ruettensheiderstr. 66, 45130 Essen.