核医用画像が代謝過程を可視化する
数日間の半減期を有するγ線担体が従来の核医療に使われているのに対して、Positron Emission Tomography(PET)には半減期が数分から1時間半の超短命陽子担体が使用されている。陽子担体はサイクロトロン内で作らねばならず、さらにそれを検査室に迅速に運ばなければならない為、それを運営する為の広範なシステムが必要となり、結果的に核種の生産は非常に高額なものとなる。PETに対応させる為の検査機器および広範な設備の改造には高い費用がかかる。これらの理由から、オーストリアではPET技術の使用が可能なところは限られている。機器が数台しかない為に、検査にかなりの待ち時間を強いられる事もある。
同時に、世界規模でこの検査の実施頻度が急増しており、その適応疾患も増え続けている。腫瘍学において現在最も重要な検査はフルオロデオキシグルコース(fluorodeoxyglucose)を用いた全身PETである。放射性フッ素(半減期110分の陽子担体)を糖分子に標識し、静脈投与する。標識された糖分子はエネルギーの必要な全ての細胞に輸送されるが、通常の糖分子とは異なり二酸化炭素と水に分解できないためにその細胞内に留まる。従って、例えば脳や心筋、それだけではなく特定の腫瘍やその転移腫瘍のようなエネルギーを大量に使用する細胞に多くの核種が蓄積する。PETを用いて体の各部におけるグルコースの局部使用を示す事により、多種の腫瘍で高品質の診断が可能になる。さらに、全身の画像も1回の検査で同時に得られる為、全ての転移を把握し完全な病像がつかめるのである。多くの腫瘍について、PETは他の画像診断よりも優れているのである(適応についての関連表を参照)。
しかしながら、PETが特に重要なのは治療前の段階だけではなく、治療後の回帰モニタリングにも非常に重要である。また、PETはより迅速で正確な治療のコントロールを可能にする。腫瘍組織の糖代謝量をつかむ事によって、化学療法をたった1-2サイクル行なっただけで腫瘍が特定の治療に応答しているか否かを評価する事が可能となる。従って、必要であれば治療方針を非常に早い段階で変更する事も可能であり、患者の不必要な負担を軽減し、治療費を節約することが出来るのである。適当なスキャナーを使えば全身のスキャンは注射後およそ1時間で行なえ、陽子消滅放射線地図が描かれ、そこで起こっている崩壊過程の空間的な場所がわかる。解像度と映像の質についていえば、いわゆるフルリングスキャナーの方がパーシャルリングスキャナーもしくは平面検出器と高出力コリメーター搭載のハイブリッドカメラよりもずっと優れていることが分かっている。フルリングスキャナーを使用する事によって、解析範囲をたった数ミリのレベルに上げる事が可能になり、従来型の核医療でのそれより著しくその解像度を上げる事ができる。アメリカ合衆国では、1995年当初は心筋潅流だけだった、返金措置を受けられるリストに載る適応症が増え続けている。1998年には肺疾患の特 性診断が加えられ、1999年にはリンパ腫、黒色腫、大腸ガンのステージ診断が加えられた。このリストに載る疾患は現在も増え続けている。ヨーロッパの多くの国々でもPETの費用は社会的な健康保険で認められている。オーストリアでは、残念ながら保険適用には至っていない。PET画像の空間的解像度はコンピュータートモグラフィー(CT)よりもやや劣る為、技術融合がすすめられている。それはPETの情報をCT断面に重ね合わせる事により、より良い糖蓄積部位の位置決定を可能にするものである。
肺疾患におけるPET/MRT融合画像
腫瘍治療では、PETは治療前の原発腫瘍の発見や性質決定に用いられているほか、腫瘍の回帰コントロールや治療モニタリングにも用いられている。
PET診断1回につき1,300ユーロは比較的高額ではあるが、全身の診断を1度で行なう事が出来る。患者1人について核種の平均費用は約500ユーロと推定されている。全身スキャンは5-6回のMRT診断(現在約190ユーロ×5=950ユーロ)に相当する。約3億ユーロのスキャナーへの投資が予測され、放射線妨害構造をもつ施設もさらに加えなければならない。最大で1日およそ5人の患者を治療する事が可能である。これらの費用は1サイクルの化学療法、計画を含むリニアアクセレーターによる放射線治療などに関連して、またバイパス手術、心臓移植、うつの治療に必要な薬剤の年間費用に関連して考えられるべきである。賢い治療前診断プログラムは多くのこういった財源の節約を意味し、これは診断費用の削減に役立つはずである。ここで聞いておかなければならない事は、ガン患者が延命する事はオーストリア社会にとっての財産であるかどうかと言う事である。オーストリアでは、それぞれ異なる団体が医療機関での治療とそれ以外での治療の費用を負担している為、PET診断によって節約されうる財源の大部分がすぐにその費用と相殺されるわけではない。PET診断の放射線量はおよそ10-20mSvで、これは腹部及び胸部CTと同程度である。PETとCTスキャンデータは直接コンピューター化した放射線治療計画にくみ入れる事ができ、さらにその先の操作が行なわれる。
1a: | 臨床効果が明らかに証明されている |
1b: | 臨床効果が証明可能である |
2: | 個々の症例で有用である |
3: | データの不足により結論が出せない |
4: | 通常、臨床的な価値はない |
内分泌・神経内分泌腫瘍 | |
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分化型甲状腺ガン | |
回帰診断-放射性ヨウ素陰性部位 | 1a |
回帰診断-放射性ヨウ素陽性部位 | 1b |
甲状腺髄様ガン、褐色細胞腫、カルチノイド | |
治療コントロール | 3 |
筋細胞腫瘍:全ての症例 | 3 |
原発腫瘍の状態 | 4F-18 DOPA |
APDOMASの場合、良い可能性あり | |
胃腸腫瘍 | |
膵臓ガン | |
DD carcinoma v.慢性膵炎 | 1a |
回帰診断 | 1b |
リンパ節・遠隔転移のステージ診断 | 3 |
食道ガン | |
リンパ節・遠隔転移のステージ診断 | 1a |
状態 | 3 |
治療コントロール | 3 |
回帰診断 | 3 |
結腸直腸ガン | |
疑義確定(腫瘍マーカー)時のステージ再診断 | 1a |
治療コントロール | 1b |
婦人科系腫瘍 | |
乳ガン | |
Nステージ診断(評価のない小さな腫瘍) | 1b |
状態診断 | 2 |
Mステージ診断 | 2 |
回帰診断 | 3 |
治療モニタリング | |
化学療法 | 3 |
予後診断 | 3 |
卵巣ガン | |
回帰診断 -術前の前哨診断が望ましい。陰性FDG PETは微小転移を除外しない。 -より良い評価への傾向が予測される。現在2次適応。 | 2 |
頭部・頸部腫瘍、CUP | |
原発腫瘍不明 | 1a |
Nステージ診断 | 1a |
回帰診断 | 1a |
二次的なガン | 2 |
Mステージ診断 | 3 |
状態 | 3 |
治療コントロール | 3 |
肺腫瘍* | |
肺疾患のDignity | |
外科的リスク | 1a |
Nステージ診断(NSCLC) | 1a |
Extra thoracal Nステージ診断(例外:脳転移) | 1a |
回帰診断 | 1a |
肺疾患のDignity | |
患者の正常状態保持 | |
外科的リスク | 1b |
治療コントロール | 2 |
悪性リンパ腫 | |
ホジキンリンパ腫 | |
ステージ診断 | 1b |
治療コントロール | 1b |
高度悪性NHL(非ホジキンリンパ腫) | |
治療コントロール | 1a |
ステージ診断 | 1b |
低度悪性NHL | |
ステージ診断 | 3 |
治療コントロール | 3 |
回帰診断;化学療法後の応答 | 3 |
皮膚ガン | |
悪性黒色腫 | |
pT3及びpT4腫瘍の回帰診断又は転移後の状態 | 1a |
Nステージ診断(Breslow >1.5mm又はリンパ節浸潤あり) | 1b |
Mステージ診断(Breslow >1.5mm又はリンパ節浸潤あり) | 1b |
治療コントロール | 3 |
Dignity | 3 |
予後診断 | 3 |
骨腫瘍及び軟組織腫瘍 | |
原発腫瘍のDignity・手術計画の為の生物学的活動性認定 | 1b |
跳躍病変 | 3 |
軟組織腫瘍 | 3 |
Mステージ診断 | 3 |
治療コントロール | 3 |
回帰診断 | 3 |
治療ステージ診断 | 4 |
骨腫瘍Nステージ診断 | 4 |
脳腫瘍** | |
悪性神経膠腫における再発と放射線壊死の差異認定 | 1a |
再発神経膠腫の性質診断 | 1a |
神経膠腫の生検部位確定 | 1a |
生物学的活動性認定 | 1b |
悪性神経膠腫における術後残存腫瘍の確認 | 1b |
DDリンパ腫及びトキソプラズマ症 | 1b |
*肉芽腫性疾患(サルコイドーシス、TB、ヒストプラズマ症)で偽陽性反応を示す事がある。
*<<1cmの非常に小さい腫瘍、カルチノイド、肺胞細胞癌で偽陰性反応を示す事がある。
**F-18 アミノ酸をC-11メチオニンの代替として使用した。
指導:Dr. Franz Fruhwald
Fruhwald/Steiner/Obermeyerインスティチュート医療主任