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オーストリア腫瘍学会会誌2002

乳ガン治療の変化

Dr. med. Eva Sischka
Eva Sischka

現在、乳ガンは女性の死因の第1位を占めています。オーストリアでは、乳ガンの新規患者数は年間4500人以上と言われており、過去10年間の乳ガン発症率は実際に増加傾向にあります。しかし、乳ガンの発生率は上昇しているものの、効果の高い新薬が開発されたおかげで、幸運にも乳ガン患者の予後は目覚しく良くなってきています。

乳ガンを治療する際、乳ガンがホルモン依存性なのか非依存性なのかを識別することが、現在では非常に重であると言われています。ホルモン非依存性の乳ガンでは化学療法が第一選択治療法となりますが、ホルモン依存性の乳ガンでは、ホルモン療法がその治療効果の高さと副作用の少なさから第一選択治療法となります。このような理由から、Tamoxifenは現在までホルモン依存性乳ガンの治療の主役を担ってきましたが、近年Femara(R)といったアロマターゼ阻害剤などの研究報告が脚光を浴び、乳ガンの標準治療法(ガイドライン)に一石を投じました。

アロマターゼ阻害剤のメカニズム

アロマターゼと呼ばれる酵素は、生体でアンドロゲン(男性ホルモン)をエストロゲン(女性ホルモン)に変換する役割を担っています。

閉経後の女性では、エストロゲンは主に脂肪組織、肝臓、筋肉の細胞で産生されます。作用点の違いからアロマターゼ阻害剤はステロイド系、非ステロイド系の 2種類に分類することができます。Formestane、Atamestane、Exemestaneなどのステロイド系アロマターゼ阻害剤は、アンドロステンジオン様物質であり、アンドロステンジオンの代わりにアロマターゼと共有結合することによってアロマターゼの働きを非可逆的に不活性化します。 Letrozole、Anastrozole、Fadrozoleなどの非ステロイド系アロマターゼ阻害剤は、アロマターゼのチトクロームP-450活性部位と可逆的な結合をする事でアンドロステンジオンと競合し、腫瘍周辺や腫瘍内のアロマターゼの働きを抑制し、その結果ホルモン依存性乳ガン細胞に不可欠な物質であるエストロゲンの生成量を減少させます。このように、アロマターゼ阻害薬は非常に選択性が高いため、Tamoxifen(エストロゲン受容体阻害薬)よりも副作用がはるかに少ないと報告されています。

閉経後の乳ガン患者の治療において、アロマターゼ阻害剤の効果は、今まで「最善の治療法」とされてきたTamoxifenの効果をはるかに上回ることが証明されました。アロマターゼ阻害剤(Anastrozole、Exemestane、Letrozole)とTamoxifenの効果を比較した5 件の大規模な無作為試験の結果、すべての試験においてアロマターゼ阻害剤でより高い効果が認められています。

Femara(R) vs. Tamoxifen (最前線の試験結果)

閉経後のホルモンレセプター陽性の進行乳ガン患者907名を対象に、多施設無作為二重盲検試験が実施されました(フェマーラ群:Femara(R)2.5mg/日投与、タモキシフェン群:Tamoxifen 20mg/日投与)。 この試験は、過去に実施されたホルモン療法の試験の中では最大でかつ最前線の試験であり、この際、進行乳ガンに対する試験方法としてクロスオーバー比較試験(注1)が採用されました。この試験によってアロマターゼ阻害剤Femara(R)はTamoxifenに比べて数段優れた薬剤であることが証明されました。

試験の主要評価項目の1つであるTTP(症状が悪化するまでの期間)は、フェマーラ群で9.4ヶ月、タモキシフェン群では6.0ヶ月であり、フェマーラ群では病状が悪化するリスクが約30%低下しました。さらに、フェマーラ群では、客観的な奏功率(32% vs. 21%)においても臨床効果(50% vs. 38%)においてもタモキシフェン群よりも明らかに好い結果が得られています。ここでの臨床効果とは、「症状の完全または部分寛解」もしくは「症状の6ヶ月以上の安定」をいいます。

Femara(R)は腫瘍の位置や、受容体の状態、事前に行われていた補助療法などに影響されることなく、転移性乳ガンの最前線の治療法として、あらゆる面でTamoxifenより優れていました。また、2001年12月に開催されたサン・アントニオ乳ガンシンポジウムでは、M. Piccart氏が「Femara(R)を投与した乳ガン患者の2年時生存率が向上した。」という最新の研究結果を報告しています。

Femara(R) vs. Tamoxifen (術前補助療法における研究)

乳房温存手術を適用できなかった閉経後乳ガン患者324名を対象に、術前補助療法におけるFemara(R)と Tamoxifen の多施設第Ⅲ相臨床試験が実施されました。試験では、試験前に化学療法やホルモン療法を受けたことのない患者を無作為にフェマーラ群(Letrozole 2.5mg/日)とタモキシフェン群(Tamoxifen 20mg/日)に分類し、各薬剤を腫瘍が小さくなるまで4ヶ月にわたり投与しています。

この臨床試験でもフェマーラ群は奏功率(55% vs. 36%)や乳房温存手術適用率(45% vs. 35%)ともに、タモキシフェン群より優れた結果を残しました。

アロマターゼ阻害剤の展望

アロマターゼ阻害薬が、将来、今まで「最善の治療法」とされてきた「Tamoxifen」に取って代わり、新たな標準療法となる可能性が示されました。

しかしながら、アロマターゼ阻害剤に関しては、今後も臨床試験や術前・術後補助療法の適用に関する調査をしていかなければなりません。同様に、アロマターゼ阻害剤の他療法との併用や閉経前女性への効果、予防医学的な利用価値の有無の検証を行っていく必要があると思います。

(注1) 臨床試験に用いられる試験方法の1つで、交互試験・交差試験とも呼ばれています。
ある群には「薬1投与終了後に薬2を投与」、他の群には「薬2投与終了後に薬1投与」のように、各群に異なる薬剤を互いに時期をずらして投薬し、それぞれの結果を集計し評価する方法です。

時期1 時期2
A群: 薬1 薬2
B群: 薬2 薬1

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