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補完代替・統合医療フォーラム2006

テンジャン(韓国味噌)の抗酸化とガン予防について

韓国ガン予防学会会長 Prof. Kun-Young Park
プサン国立大学教授
韓国ガン予防学会会長
クン・ユン・パーク

はじめに

韓国の大豆発酵食品には、テンジャン(味噌)、カンジャン(醤油)、チャンクックジャン(短期発酵させた納豆)、コチュジャン(赤唐辛子入り味噌)、サムジャン(テンジャンとコチュジャンを合わせ、ニンニク等を添加したもの)などがあります。本日は、テンジャンとチャンクックジャンのガン予防効果についてお話しします。

1. 食生活と発ガン

1988年から1992年のアメリカでの前立腺ガンの発症率を人種別に見てみると、アフリカ系アメリカ人が約1.8%と一番多く、日本人は4位で約0.9%、韓国人は約0.25%と最下位でした。この韓国人の前立腺ガンの発症率の低さは、アメリカ在住の韓国人が大豆発酵食品を取り入れた伝統的な食事を維持しているためであると考えられます。このようなことから、私達は、食事はガン予防、またガン手術後の治療においても非常に重要なものと考えています。

2. 大豆に含まれるファイトケミカル

大豆は様々なファイトケミカル(植物由来の化学物質)を含有していますが、最も重要なのがイソフラボンです。大豆中のイソフラボンは配糖体(ゲニスチン、ダイジンなど)の形で存在しています。これらは、発酵や消化の過程で分解され、糖がはずれた形のアグリコン(ゲニステイン、ダイゼインなど)となります。このゲニステインには強力な抗ガン作用、抗変異原作用が認められています。また、抗酸化作用や血清コレステロール低下作用、さらに、エストロゲン様作用によりのぼせや骨粗鬆症といった更年期障害を改善する効果もあります。

大豆中のタンパク質も非常に重要です。大豆のタンパク質は発酵の過程でペプチド、アミノ酸へと分解されますが、これらの物質も抗ガン作用、抗酸化作用を持つことがわかっています。さらに、ACE(アンジオテンシン変換酵素)の阻害、血清コレステロール低下作用、抗トロンビン作用から動脈硬化を予防する効果もあります。その他、不飽和脂肪酸(リノール酸、リノレン酸など)、βシトステロール配糖体、トリプシンインヒビター、サポニン、ビタミンE、フィチン酸、食物繊維など、実に多くの成分が大豆には含まれています。

3. 発ガン予防戦略

発ガンの過程にはいくつかの段階があります。発ガン物質に暴露された細胞はイニシエーション(初期段階)、プロモーション(促進期)、プログレッション(進行期)を経て腫瘍細胞を形成します。イニシエーションの段階では、前発ガン物質の活性化を担うphaseⅠ酵素(p450)の阻害、あるいは解毒を担うphaseⅡ酵素(GST、グルタチオンSトランスフェラーゼ)の活性化により発ガンを予防することができます。プロモーション、プログレッションの段階では、活性酸素種の除去、遺伝子発現の修正、炎症・細胞増殖の抑制、分化・アポトーシスの促進といった方法が考えられます。

テンジャンのガン予防効果

1. テンジャンの製法

大豆を煮てすりつぶし、1~2ヶ月自然発酵をさせ、メジュと呼ばれる麹を造ります。メジュと塩水を大きな瓶に入れ2~3ヶ月発酵・熟成させた後、これを絞ります。固形分を瓶に戻し、さらに2ヶ月以上発酵させるとテンジャンができます。一方、絞った液体を濾過して沸騰させたものがカンジャンです。

2. 抗変異原作用

サルモネラTA100株を用い、アフラトキシン(AFB1)によって引き起こされる突然変異に対する様々な大豆発酵食品の抗変異原作用を測定しました。試験には各食品のメタノール抽出物を用いました。その結果、米には抗変異原作用は全く見られず、味噌、チャンクックジャン、テンジャンの順に抗変異原作用が強くなることがわかりました。テンジャンの中でも、伝統的な製法で造られたテンジャンが最も強い抗変異原作用を示しました。そこで、テンジャンの各活性成分をメタノールで抽出し、同様に抗変異原作用を調べました。その結果、ゲニステインとリノール酸に非常に高い抗変異原作用が認められました。
テンジャンのガン予防効果

3. 形質転換抑制作用

形質転換抑制作用

この写真はC3H/10T/1/2細胞株を用いた形質転換試験で観察される病巣の写真です。この細胞は発ガン物質(3-メチルコランスレン、MCA)で処理すると、タイプⅠからⅡ、Ⅲへと形質転換します。50~80%のラットはタイプⅡ・Ⅲの状態になるとin vivoで発ガンすることがわかっていますので、タイプⅡ・Ⅲへの形質転換を抑制する物質は抗ガン作用があると言えます。この試験系を用い、異なる濃度におけるテンジャンの形質転換抑制作用を調べました。コントロールではタイプⅡ・Ⅲの病巣数は22.3であったのに対し、テンジャンを添加すると2.3~4.7にまで減少しました。またテンジャンの含有成分であるゲニステイン、リノール酸、βシトステロールについても同様の試験を行ったところ、各物質で病巣数の減少が見られました。

4.生存期間延長効果

sarcoma-180(S-180)細胞株を移植したBalb/cマウスを用い、テンジャン、味噌、大豆のメタノール抽出物がマウスの生存期間に及ぼす影響を観察しました。生存期間が最も長かったのはテンジャンで、一方、味噌には発酵大豆の他にも米や小麦のような炭水化物が約50%も含まれているため、100%大豆を使用しているテンジャンに比べ生存期間の延長率は低くなりました。
生存期間延長効果

5. 抽出溶媒の検討

テンジャンのヘキサン、メタノール、水、各抽出物がS-180移植マウスの腫瘍重量と生存期間に及ぼす影響を比較しました。ヘキサンでは脂溶性成分、メタノールでは脂溶性・水溶性物質の両方、水では水溶性成分が抽出されます。これらのうち、腫瘍重量、生存期間ともに、メタノール抽出物に最も高い抗腫瘍活性が認められました。

6. テンジャンのGST活性、グルタチオン量、GR活性に及ぼす影響

S-180移植Balb/cマウスの肝臓において、テンジャン、味噌、大豆のメタノール抽出物がGST活性に与える影響を調べました。テンジャンを投与したマウスのGST活性が最も高く、非投与群の289.4から319.7に回復しました。これより、テンジャンには肝臓の解毒酵素を活性化する作用があることがわかりました。さらに、肝臓のグルタチオン量、グルタチオンレダクターゼ(GR)活性も測定しました。これらもテンジャンの投与により大きく回復していることが示されました。

7. アポトーシス誘発作用

テンジャンにはアポトーシスを促し、ガン細胞の増殖を抑制する作用があります。次の写真はヒト胃ガン細胞(AGS株)にテンジャンのクロロホルム抽出物(100μg/ml)を添加し48時間後の変化を観察したものです。矢印で示された細胞にアポトーシスが起こっているのが確認できます。

8. テンジャンの発ガン抑制メカニズム

細胞の増殖過程にはG1→S→G2→M→G1という周期があります。ガン細胞もこの周期に従って増殖するため、ガン細胞の増殖を抑える手段として、この細胞周期を停止させるという方法があります。G1期において、細胞はサイクリンD群を合成し、さらに、サイクリン依存性キナーゼ(Cdk)を活性化することでS期へと移行します。テンジャンにはこのサイクリンD群の発現を抑える作用があります。MCF-7乳ガン細胞株をテンジャンのヘキサン分画で処理しウェスタンブロット法で解析すると、時間とともにサイクリンD群の発現が抑えられているのがわかります。(左)またG2/M期においては、Cdkを阻害する細胞周期制御タンパクp21が発現していますが、テンジャンはp21の発現を高めることでも細胞周期を停止することができます。(右)

9. 発酵期間の検討

1) 抗腫瘍活性
テンジャンの発酵期間が抗腫瘍活性に与える影響を調べるために、3ヶ月、6ヶ月および24ヶ月発酵させたテンジャンを用意しました(順に3MD、6MD、24MD)。S-180移植Balb/cマウスにこれらのメタノール抽出物を投与したところ、発酵期間が長くなるにつれ抗腫瘍活性が上がることがわかりました。

さらに、2種類のヒト前立腺ガン細胞株PC-3とDU145を用い、発酵期間の異なるテンジャンのクロロホルム抽出物の抗腫瘍活性を調べました。発酵させていない大豆、1年発酵テンジャン、2年発酵テンジャンの順に活性が高くなりました。

2) GST活性、NK活性
通常細胞およびS-180移植マウスいずれにおいても、GST活性は発酵期間が長くなるほど高くなることがわかりました。また、S-180移植マウスにおいて、ガン細胞を殺すナチュラルキラー(NK)細胞の活性を測定した際も、発酵期間が長いものほど高い活性が認められました。

3) 転移抑制作用
次に、結腸ガン26-M3.1細胞移植マウスを用い、各テンジャンのメタノール抽出物の転移抑制率を調べました。コントロールでは42~44個の肺転移が認められましたが、24ヶ月発酵テンジャンを投与したマウスでは5~9個と転移が抑制されました。また、長期発酵にともないin vivoでの転移抑制作用が高まることも明らかになりました。

4) 抗変異原作用
発酵していない大豆と発酵期間1年、2年のテンジャンの抗変異原作用を、Ames試験を用いて比較しました。大豆はほとんど抗変異原性を示さなかったのに対し、2年発酵テンジャンでは復帰変異の抑制率が顕著に上昇しました。

遊離脂肪酸量の変化
テンジャンの遊離脂肪酸の含有量を測定すると、水煮大豆(0.6g/100g)、1年発酵テンジャン(3.9)、2年発酵テンジャン(6)の順に多くなっていきました。これは、発酵中に微生物の酵素によって遊離脂肪酸量が増加していくことを示しています。そこで大豆中のトリグリセリドと遊離脂肪酸について、Ames試験系を用いて抗変異原作用を調べました。遊離脂肪酸が変異抑制率83~98%と高い活性を示しているのに対し、トリグリセリドでは低値でした。したがって、発酵中にトリグリセリドの分解により精製した遊離脂肪酸が抗変異原性作用に関わっていると考えられます。

10. 使用する塩の検討

塩は発ガン促進作用や変異原性増強作用があるため、胃ガンの危険因子とされています。また、動脈硬化、高血圧の原因にもなるため、塩分の摂り過ぎは大きな問題となります。テンジャンや味噌にもかなりの塩分が含まれているため、その悪影響が懸念されますが、1990年にCheighらが「肉を焼いた時に塩を用いると脂質の酸化を促進してしまうが、同量の塩分を含むテンジャンを用いると脂質の酸化を防ぐ事ができる」と報告しているように、塩のデメリットを打ち消す事のできるテンジャンの有益性が明らかになってきています。したがって、私たちはテンジャンに使用する塩の研究にも取り組んでいます。

通常、テンジャンの製造には精製食塩(PS)を使用しますが、塩による影響を検討するため、Chunil salt (CS、天日干しによる天然塩)、竹塩(BS)、NaClの代わりにKClを使用した竹塩(KB)を用いテンジャンを造りました。竹塩とは天然の塩を竹に詰め粘土などで固めて1200度の高温で処理したもので、精製食塩やChunil saltに比べ還元力が高くなります。1回加熱処理をしたもの(BS1)と9回処理したもの(BS9)では塩の質が異なるため、別々に検討しました。

これらのテンジャンのガン細胞増殖抑制作用についてAGS細胞株を用いたMTTアッセイにより調べたところ、竹塩を使用したテンジャンのガン細胞増殖抑制率は99%であり、精製食塩を添加したテンジャン(75%)と比べ細胞の成長を顕著に抑制しました。次に結腸ガン26-M3.1細胞を移植したマウス用い、各テンジャンの転移抑制作用を比較したところ、BS9-テンジャンとKB1-テンジャンが高い活性を示しました。全く転移が認められない例もありました。

結論として、テンジャンのガン予防効果を高めるためには、発酵期間と使用する塩の種類が極めて重要であることがわかりました。

チャンクックジャン

1. チャンクックジャン(CKJ)の製法

チャンクックジャンは伝統的には、水煮(4時間)→稲わらによる自然発酵(40℃、72時間)→塩・赤唐辛子・にんにくの添加→熟成(5℃、15日間)の手順で造られます。最近の近代化された製法では、オートクレーブ→発酵(40℃、72時間)→塩の添加(7.6%)の工程により製品化され、熟成期間はありません。近年私たちは機能性を高めるためにManrikong という種類の大豆を使用し、B.licheniformisによる発酵(40℃、48時間)→塩(7.9%)、にんにく(2.0%)、赤唐辛子添加→熟成(5℃、15日間)という独自の製法を開発しました。

2. 使用する大豆の検討

大豆の種類によって抗変異原作用に違いがみられるかどうかを検討しました。使用した大豆はJoonjuhri(小サイズの大豆)、Manrikong(中サイズ)、Hwangkeumkong(大サイズ)、アメリカからの輸入大豆の4種類です。その結果、JoonjuhriとManrikongが高い抗変異原活性を示しました。

3. 製法の検討

伝統製法、近代製法(市販)、独自製法(機能性)のチャンクックジャンについて、AGS細胞株を用いたMTTアッセイ、Ames試験、S-180移植マウスの腫瘍重量により、ガン細胞増殖抑制作用、抗変異原作用、抗腫瘍活性を比較しました。いずれの試験においても機能性チャンクックジャンが最も高い活性を示しました。

S-180移植マウスのNK細胞活性は以下のようになり、機能性チャンクックジャンの活性は他の二つと比べ高いことが示されました。

4. 黒大豆を使用したチャンクックジャン

近年、私達は黒大豆(BB)を使用したチャンクックジャンの研究をしております。黒大豆(BB)、皮を除いた黒大豆(BK)、黒大豆の皮(BC)のAGS細胞株に対する抑制作用をMTT assayにより調べました。その結果、皮の部分に強力なガン細胞増殖抑制作用が認められました。これは、アントシアニンという色素が、抗ガン作用を持つためと考えられます。

5. 使用する塩の検討

チャンクックジャンに添加する塩についても検討しました。3日間発酵させた後、塩を添加しないものと、精製食塩(PS)、Chunil salt(CS)、1回加熱処理した竹塩(BS1)を添加したものを用意し、それぞれの作用を比較しました。抗酸化作用(OD540)については、DPPHフリーラジカルに対する酸化抑制率を測定しました。精製食塩と比較して竹塩の抗酸化作用は53から72へと増加しており、その他の試験においても竹塩を使用したチャンクックジャンが最も高い活性を示しました。
使用する塩の検討

コチュジャン

最後に、コチュジャンに関するデータを1つご紹介します。コチュジャンには抗酸化作用だけでなく抗ガン作用もあり、私たちはこれについても研究を行っています。Table.16は結腸ガン26-M3.1細胞を移植したマウスの肺転移抑制作用のデータです。CKは市販のコチュジャン、TKⅠは発酵させていない伝統的コチュジャン、TKⅡは6ヶ月発酵させた伝統的コチュジャン、RPPはTKⅠ、TKⅡに含まれているのと同量の赤唐辛子を表します。Table.16のように、6ヶ月間発酵させた伝統的なコチュジャンは、肺転移数を3~4まで抑制し、その転移抑制率は79~84%でした。このように、コチュジャンでも発酵させることで、その転移抑制作用が高くなる事が分かっています。
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